理事長コラム「ススメのひらき」~裏側で

現代の私たちの生活は、IT機器やサービスなしでは成り立たなくなりました。スマートフォンはもちろんのこと、ノートパソコンやタブレット、さらには生成AIのような高度な技術が私たちの日常に溶け込んでいます。しかし、その利便性の陰には、見過ごされがちな問題が潜んでいます。それは、電力消費の増加です。
これらのIT技術が私たちに快適さをもたらす一方で、エネルギー消費の増加がもたらす環境負荷が大きくなりつつあります。今回は、IT機器やサービスの電力消費の実態を見つめ直し、この問題にどう対処すべきかを一緒に考えてみたいと思います。
IT機器の便利さと見えない代償

私たちが日常的に使用しているIT機器やサービスは、非常に便利であり、私たちの生活に欠かせない存在です。しかし、その裏では多くの電力が消費されていることを意識する必要があります。
・スマートフォン
1回の充電で5.4Wh~16.8Whの電力を消費し、電気料金に換算すると0.1円~0.4円程度となります。家庭全体で年間にすると、電気料金で401円~949円程度のコストがかかります。特にスマートフォンは、日常的に使用頻度が高く、ほとんどの人が1日1回以上充電しているため、その積み重ねが意外と大きな電力消費となります。
・デスクトップパソコン
1日8時間使用した場合、年間で約120kWh~310kWhの電力を消費し、電気料金は3,105円~8,120円程度になります。デスクトップパソコンは高性能な機器であるため、電力消費量も多くなりがちです。
・ノートパソコン
1日8時間の使用で、年間で5.7kWh~8.6kWhの電力を消費し、電気料金は148.8円~223.2円程度です。ノートパソコンはデスクトップよりも省電力であるため、外出時の利用や省エネ意識の高いユーザーにとっては有利な選択肢となります。
生成AIと電力消費の急増

ここ数年、生成AI(Generative AI)という言葉をよく耳にするようになりました。テキスト生成、画像生成、音声認識など、私たちが日常で利用するAI技術は急速に進化し、その利便性は計り知れません。しかし、その背景には膨大な計算処理があり、電力消費が大幅に増加していることをご存じでしょうか。
生成AIが行うデータ処理は、非常に高度であり、そのために大規模なデータセンターやサーバー群が24時間体制で稼働しています。例えば、テキスト生成を行うAIモデルは、何百万ものデータを参照し、最適な結果をリアルタイムで提供しますが、その過程で大量のエネルギーを必要とします。ある調査によると、生成AIが1回の処理に使う電力はおよそ22Whに相当し、これはスマートフォンのフル充電に相当します。
さらに、これらのAIサービスはクラウド上で提供されるため、個々のユーザーが気づかないうちに膨大なサーバーが稼働し続けています。たとえば、データセンター全体で消費される電力は、100万人都市と同等の規模に達することもあると言われています。このように、生成AIの普及とともに、ITの利便性は飛躍的に向上しましたが、その一方で、私たちが享受している便利さの裏側で、急激に増加する電力消費の問題が深刻化しています。
生成AIが私たちの生活に新たな価値を提供していることは間違いありませんが、その運用には多大なエネルギー資源が必要であることを忘れてはなりません。技術の進化とともに、この電力消費の増加をどう抑えていくかが、今後の課題と言えるでしょう。
電力消費の増加が社会に与える影響

IT機器や生成AIによる電力消費の増加は、私たちの社会にさまざまな影響を及ぼしています。特にエネルギー需要の拡大は、環境への負荷や社会的コストの増加を引き起こしています。
まず、電力消費の増加は、エネルギー供給の負担を大きくしています。再生可能エネルギーの普及が進んでいるとはいえ、依然として多くの国では化石燃料に頼っており、エネルギー需要が増えることで、二酸化炭素排出量が増加し、気候変動の進行が加速する懸念があります。データセンターやITインフラが24時間稼働し続けることで、エネルギー使用量が急増し、その結果、温室効果ガスの排出が増え、環境への負荷が高まっています。
次に、エネルギー需要の増加に伴う電力コストの上昇です。電力の供給が需要に追いつかない場合、電気料金が上がり、企業や消費者にとっての負担が増加します。特に、ITインフラやAI技術を多用する企業は、エネルギーコストの上昇により、運営コストの増加を余儀なくされるかもしれません。これにより、IT技術の活用が進む一方で、コスト面での持続可能性が課題となる可能性があります。
さらに、地域社会への影響も無視できません。データセンターやITインフラを設置するには大量の電力が必要となるため、その電力供給元である地域に大きな負担がかかります。一部の地域では、エネルギー供給不足が問題となり、電力不足による停電のリスクが高まることも考えられます。
私たちが日常的に利用するIT技術やサービスの背後には、このようなエネルギー問題が存在しています。電力消費が社会に与える影響を正しく理解し、エネルギーの効率的な利用や、持続可能な技術の導入を進めていくことが求められています。
私たちにできる省エネの取り組み

電力消費の増加による問題が深刻化する中、私たち一人ひとりが意識して省エネに取り組むことが求められています。IT機器やサービスは生活に欠かせない存在ですが、その利用方法を工夫することで、電力消費を抑えることが可能です。ここでは、日常生活で実践できるいくつかの取り組みを紹介します。
まず、デバイスの省電力モードを積極的に活用することが挙げられます。多くのスマートフォンやノートパソコンには、省電力モードが搭載されており、これを有効にすることでバッテリーの持ちが良くなり、電力消費を抑えることができます。また、使用していないデバイスはこまめに電源を切ることも効果的です。特に、スタンバイ状態で放置されがちなデスクトップパソコンやモニターは、無駄な電力を消費してしまいます。
次に、データセンターやクラウドサービスの利用においても、効率的な使い方を意識することが大切です。必要以上に大容量のデータを保存したり、頻繁にクラウドにアクセスすることは、裏で大量の電力を消費する原因となります。データの整理や削除、またはオフライン環境での作業を意識することで、少しでも電力負荷を減らすことができます。
さらに、再生可能エネルギーを使用したサービスやグリーンITへの移行も重要なポイントです。近年、多くのIT企業が環境に配慮した取り組みを進めており、再生可能エネルギーで稼働するデータセンターやエネルギー効率の高いデバイスの開発が進んでいます。私たちがこうしたサービスや製品を選択することで、持続可能なエネルギー利用を後押しすることができます。
最後に、家庭や職場での意識向上が欠かせません。電力使用量をモニタリングすることで、自分がどれだけの電力を消費しているかを把握し、省エネに対する意識を高めることができます。また、職場ではIT機器の共用や、リモートワークの推進を通じて、全体のエネルギー消費を削減する工夫ができます。
省エネは、個人の意識と行動から始まります。便利なIT技術を享受しながらも、電力消費を最小限に抑える努力を続けることで、持続可能な未来を築いていくことができるのです。