理事長コラム「ススメのひらき」~ご不便をおかけして申し訳ございません by AI

AIが自分の作った詐欺メールに驚いている様子 Geminiで生成した画像
自分で作った詐欺メールが自分に届いてメールを見て驚いているAIの様子 Geminiで生成

コラムの内容を音声で聞いてみよう!

便利になったAI、広がる活用の場

最近話題の生成AI。文章の作成や要約、企画書の下書きなど、暮らしや仕事のあらゆる場面で活躍しています。
「難しい言葉をやさしく書き直す」「お知らせ文を整える」など、誰でも簡単に使えるようになり、
パソコンやスマホがまるで“賢い相棒”のように感じられる時代になりました。

私自身も日々、AIをめちゃくちゃ活用しています。
講座資料の作成や原稿の推敲、企画を練る際の発想整理など、AIを取り入れることで作業効率が数倍向上しました。
また、AIと対話することで自分の考えを整理したり、これまで気づかなかった視点を得たりと、
「人の思考を深める道具」としても非常に頼もしい存在です。
AIは今や、私たちの暮らしと学びを支える身近なパートナーと言えるでしょう。

その一方で、悪用も進む現実

しかし、その便利さの裏で、AIは詐欺や犯罪にも利用されています。
最近届くメールやSMS(ショートメッセージ)――とくに詐欺メールが、以前よりずっと自然で丁寧になったと感じたことはありませんか?
「お世話になっております」「ご不便をおかけして申し訳ございません」といった文面が増え、まるで本物の企業から届いたように思えることもあります。
その理由の一つが、生成AIが翻訳や文章の言い回しを自然に整えることが得意だからです。
海外で作られた詐欺文面も、AIによる自動翻訳と文体補正によって、滑らかな日本語に変換されてしまうのです。

以前は不自然な日本語や誤字で見抜けた詐欺メールも、いまではAIが完璧な文体を整え、まるで信頼できる企業のように装うことができるようになりました。
こうした“言葉の進化”が、詐欺をより見抜きにくくしているのです。

警察庁によると、2024年のフィッシング詐欺の報告件数171万8,036件
不正送金被害額約86億9,000万円 にのぼっています(警察庁:令和6年上半期サイバー空間の脅威情勢)。
また、SNSを使った投資・ロマンス詐欺1万164件
被害総額は約1,268億円 に達しています(日刊金融通信「SNS投資・ロマンス詐欺、過去最多を更新」(2024年12月))。
さらに、2025年上期(1〜8月)だけでも、SNS型詐欺の被害総額は約590億8,000万円に上り(同紙2025年9月報道)、
被害の高止まりが続いています。

AIの発達が、私たちの生活を便利にする一方で、
犯罪の手口までも進化させてしまっている現実があります。

心に寄り添う“AIの言葉”

生成AIと会話をしたことがある人は分かると思いますが、まるで本当の人と会話をしているように返事をしてきます。
こちらの感情を理解しているように感じることもあるでしょう。
近年の詐欺メールには、「ご心配をおかけして申し訳ありません」など、人の心に寄り添うような表現も増えています。
AIは人間の感情表現や言葉のトーンを学習しており、安心させたり焦らせたりする文面を作り出すこともできます。
「ご利用停止の恐れがあります」「確認を急いでください」――
そんな一文を加えるだけで、人は思わずリンクを開いてしまうものです。
さらに、AIが生成した偽のロゴやデザインも精巧で、「見た目が本物だから大丈夫」と思い込む危険が高まっています。

もしこのようなメールやSMSを受け取ったら、リンクを開かないことが第一の防御策です。
すぐに操作せず、送信元のアドレスを確認し、公式サイトやアプリから直接アクセスして真偽を確かめましょう。
不安を感じたときは、家族や知人に相談することも有効です。
また、同じ内容の詐欺が報告されていないかを、警察庁やフィッシング対策協議会の公式サイトで調べるのも安心につながります。

“AIの言葉”はときに温かく、ときに巧妙です。
だからこそ、「うまい話」「急がせる連絡」ほど一度立ち止まる――
この冷静な一呼吸が、被害を防ぐ大切な習慣になります。

便利さを味方にするために

AIは、私たちの暮らしを豊かにし、社会を支える大きな力となっています。
しかし同時に、偽の情報や画像、映像を誰でも作り出せる時代になり、「本物」と「偽物」の境界は急速にあいまいになっています。

こうした時代に求められるのが、情報リテラシーメディアリテラシーです。
情報リテラシーとは、インターネットやSNSなどにあふれる情報の中から、
正しい情報を見抜き、必要な情報を選び取る力のこと。
一方のメディアリテラシーとは、テレビ・新聞・ネット記事・動画などのメディアが発信する内容を鵜呑みにせず、背景や意図を考えて理解する力を指します。

つまりこの二つは、「情報を扱う力」と「情報を読み解く力」です。
そして今、生成AIによって情報が“もっともらしく”作られ、瞬く間に共有される時代において、
どちらの力も私たちにとって“デジタル時代の読み書き能力”とも言えるほど大切になっています。

これらの力を高めるには、まず「複数の情報源を確認する」ことが基本です。
ニュースやSNSの投稿を見たときに、他の媒体や公式発表もあわせて確認してみましょう。
また、「感情的に反応しない」ことも重要です。驚きや怒りを覚えた情報ほど、真偽を確かめてから共有するように意識してください。
さらに、AIによって作られた情報や画像が増えている今は、「本当に人が発した内容なのか」を意識しながら受け取る姿勢が求められます。
少し距離を置いて考えることが、誤った情報に振り回されないための第一歩です。

情報をうのみにせず、「これは本当だろうか?」と一度立ち止まり、自分の目と頭で確かめる――その小さな習慣が、AI時代を安全に生きる第一歩です。
AIを恐れるのではなく、理解し、上手に使いながら、確かな判断力を身につけていくことが求められます。

AIは止まらない技術です。だからこそ、情報リテラシーやメディアリテラシーを高めていくことが、AI時代を安全に過ごすために最も重要です。