理事長コラム「ススメのひらき」~面倒は人の専売特許

最近、「AX」という言葉を耳にすることが増えてきました。AXは「AI Transformation(AIトランスフォーメーション)」のことです。
少し前まではDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく聞きました。
DXからAXへ。
デジタル技術によってどんどん便利になっていくその先に、逆に「面倒」が大切になるのでは、と思っています。
DXとAXは何が違う?
DXは、デジタル技術を使って、これまでの行動や仕事、仕組みそのものを変えていくことです。
例えば、住民票。
以前なら市役所へ行き、窓口で申請して受け取っていました。今ではマイナンバーカードを使って、コンビニのマルチコピー機で取得できます。早朝や夜間、土日祝日にも利用できるので、「今日中に書類を郵送しなきゃ~」と思い出した時にも助かります。
ただ、コンビニで取得できるようになっただけなら「デジタル化」です。
ポイントはその先。窓口業務が減り、市役所の職員さんがほかの仕事に時間を使える。さらに残業の削減につながり、早く帰宅して家族と過ごす時間も増える。
デジタルによって、その先の仕事や生活まで変わる。これがDXです。
では、AXは何が違うのでしょう。
AXは、AIを前提にして、仕事や生活の仕組みをさらに便利に変えていくものです。
例えば、「明日の朝9時までに名古屋駅へ行きたい」とAIに伝える。するとAIが予定や天気、交通状況などを確認して、「明日は雨で道路が混みあいそうなので、少し早めに8時10分にタクシーを呼びましょうか」と提案する。「お願い」と答えれば、AIが自動で異なるサービスとの連携を進めて手配までしてくれる。
つまり、DXは「デジタルを使って、人が便利に行動する」。
AXは「やりたいことを伝えると、AIが考え、提案し、行動の一部まで担う」。
ここが大きな違いです。
もっと簡単に言えば「人が操作する」から「AIに任せる」です。
AIが「面倒」を引き受ける
旅行を考えてみましょう。
「夫婦で京都へ一泊。予算5万円。あまり歩きたくない」と伝えるだけで、AIが好みを踏まえて、交通、ホテル、観光、食事を提案し、予約や手配までしてくれる。人が行っていた「調べる」「比べる」「考える」「選ぶ」「予約する」といった面倒を、AIが代わりにやってくれる。とても便利です。
ただ、ここで少し気になります。
「考える」「迷う」「選ぶ」という面倒まで、AIに任せてしまってよいのでしょうか。何が好きなのか。何を大切にしたいのか。そうした自分なりの考えは、いろいろなことを経験し、迷ったり、選んだりする中で作られていくものだと思います。
現地へ行って楽しむことだけは大事ですけど、旅行はそれだけではないですよね。
知り合いから「○○というお店が良かったよ」と聞いて、そこへ行ってみる。
せっかく教えてもらったから、その人にお土産を買って帰ろうと思う。
現地でお土産を選びながら、「あの人は○○が好きだと言っていたな」と思い出す。
そして帰ってから、そのお土産を渡しながら旅の話をする。
どれも、少し手間がかかります。
でも、その一つひとつに人とのつながりがあり、ワクワク感があり、楽しさがあります。
目的地に着くことだけではなく、行く前にあれやこれや考えること、現地で誰かを思い出すこと、帰ってから旅の話をすることまで含めて旅行なのだと思います。AIが「最適な旅行」を作ってくれるようになった時、こうした「寄り道」まで一緒になくしてしまわないか。
そこが少し気になります。
人に残されるのは「面倒なこと」?
所ジョージさんの「めんどくさいことが、幸せなんだよ」という言葉を思い出します。
面倒なことの中には、工夫や思いがけない発見、失敗、人とのつながり、そしてワクワクすることが隠れているのかもしれません。
AIによって面倒をなくせる時代だからこそ、自分の考えや価値観を豊かにするために、あえて面倒なことをする。AIに任せられるけれど、自分でやってみる。そんなことが必要になるのかもしれないですね。
そう考えると、なんとも変な話です。
AIが高度に発展し、面倒なことを何でもやってくれるようになった時に、人に残される大切なことの一つが、「面倒なことができる」。
便利さを追い求めた先に「面倒」が大切になる。
なんとも不思議な時代になりそうです。


