理事長コラム「ススメのひらき」~バックアップ先は自分の頭?

穏やかな水面に浮かぶ木造の小舟。古びた船体の一部が新しい木の板に交換されており、「テセウスの船」を表現している。

スマートフォンやパソコンを使っていると、「バックアップを取りましょう」とよく言われます。

例えば写真。

スマートフォンが突然壊れても、大切な写真を失わないように、パソコンや外付けストレージ、クラウドなど、別の場所にもコピーしておく。

これがバックアップです。

一つが壊れても、もう一つが残っている。

考え方は、とても単純です。

ところが最近、ちょっと事情が変わってきました。

データはどこにある?

今では、文章を書くのも、写真を保存するのも、予定を管理するのも、クラウド上で行うことが増えました。

パソコンやスマートフォンの中ではなく、インターネットの向こう側にデータがある。

これ、とても便利です。

パソコンを買い替えても、スマートフォンが変わっても、同じアカウントでログインすれば、いつものデータが出てくる。

以前なら「データの引っ越し」が一仕事でした。

今は、ログインしたら「あ、全部ある」。

すごいですよね。

でも、ふと思います。

「このデータ、自分の手元にはないな」と。

大切なデータがクラウド上にしかないとしたら、アカウントに入れなくなったり、サービス自体が使えなくなったりした時には困ります。

大切なデータなら、パソコンや外付けストレージなどにも保存しておく。

いわゆる「ローカル」にも残しておく。

昔から言われていることですが、やっぱり大切です。

ローカルって何だろう

「ローカル」は、ざっくり言えばクラウドの反対です。

自分のパソコン。
自分のスマートフォン。
自分の手元にあるストレージ。

インターネットの向こう側ではなく、こっち側。

そこで、変なことを考えました。

自分の頭も「ローカル」ではないか、と。

最近は、分からないことがあれば検索します。

さらに生成AIが登場してからは、

「これって何?」
「どうしたらいい?」
「どっちを選べばいい?」

と聞けば、かなりのところまで答えてくれます。

しかも速い。

私の頭より検索も速いし、記憶容量もたぶん桁違いです(笑)。

とても便利です。

でも、必要な情報や、考えるための材料まで、全部クラウドやAIの中に置いてしまってよいのでしょうか。

頭の中にもバックアップを

世の中の情報を全部覚える必要はありません。

電話番号を何十件も暗記する必要もないでしょう。

「これは大切だ」
「私はこう考える」
「この情報は、ちょっと怪しいな」

といった、判断するための土台まで外に預けてしまうと、少し話が違ってきます。

AIが答えてくれるから、覚えなくていい。

AIが考えてくれるから、自分で考えなくていい。

AIがおすすめしてくれるから、それを選べばいい。

いつの間にか「自分はどう考えるのか」が薄くなってしまう気もします。

覚えていることだけでなく、考えることや、選ぶことまで外に預けていったら、何をもって「自分」とするのか。

ちょっと大げさな話に聞こえるかもしれませんが、AIが急速に発展していく今、案外、真面目に考えておく必要がある気がします。

パソコンのデータなら、クラウドとローカルの両方に残す。

それなら情報も同じなのかもしれません。

クラウドも使う。
AIもどんどん使う。

でも、大切なことは自分の頭にも残しておく。

全部を暗記するという意味ではなくて、自分で考えるために必要なものを、自分の中にも持っておく。

調べたことを、自分の経験と照らし合わせて、自分なりの言葉にしておく。

これは「記憶」というより、「考えるためのバックアップ」なのかもしれません。

最後のバックアップ先

もしインターネットにつながらなかったら。

もしAIが使えなかったら。

あるいはAIが、自分とはまったく違う答えを出してきたら。

その時に、

「さて、どうしよう」

と自分で考えられるか。

AIが当たり前になるほど、自分の頭という「ローカル」に何を残しておくのかが、大切になる気がしています。

考えてみれば、自分の頭は、ずいぶん昔からあるローカルストレージです。

容量には限界がある。

検索性能も、年々ちょっと怪しくなっている。

たまに保存したはずのデータが、どこにあるのか分からなくなる(笑)。

それでも、自分で考えるための大切なものくらいは、ここにもバックアップを取っておきたい。

クラウドに全部預ける時代だからこそ。

AIが何でも答えてくれる時代だからこそ。

最後のバックアップ先は、自分の頭なのかもしれません。