理事長コラム「ススメのひらき」~あしたはどっちだぁ~。

今回のコラムは、少し空想的でありながら哲学的な内容にしてみました。
インターネットとスマートフォンの登場によって、私たちの暮らしは驚くほど変わりました。
分からないことは図書館に行かなくてもすぐに調べられ、世界中の街並みを画面越しに眺めることができる。どこにいてもビデオ通話ができ、会ったことのない人とも簡単につながれる。いまや手のひらの一台で、ほとんどのことが完結します。ほんの十数年前には想像すらできなかったことが、いまでは当たり前の風景になっているのです。
けれども最近、ふと考えることがあります。未来を描く力が、少し弱まってきているのではないか──と。小説や映画が示してきた未来像に現実が追いつきつつある今、そのさらに先を誰もはっきりと語れていないように思えるのです。まだ見ぬ未来には、胸が高鳴るワクワク感と、ほんの少しの不安が入り混じっています。これから私たちは、どんな未来を思い描き、どんな世界を望んでいくのでしょうか。
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未来を拓く視点
Appleが先日行った発表は、世間的には新しいiPhoneに注目が集まりましたが、私にとってより印象的だったのは AirPods Pro 3 の進化でした。なかでも「ライブ翻訳」の登場は、まるでドラえもんの「翻訳コンニャク」が現実になったかのようです。耳に装着するだけで異なる言語の会話が成り立つ──これは便利な機能追加にとどまらず、人間のコミュニケーションそのものを変えてしまうかもしれません。
そもそも人類は長い間、眼鏡や自動車のような「身体を補助する道具」を作り出してきました。コンピュータもまた、知的活動を支える補助装置でした。けれど、これからは補助を超えて身体そのものを拡張するツール、さらには心(意識・意思決定・情動)を補助・拡張するツールが現れてくるでしょう。すでに スマートグラス が登場し、今後も各社から新しいモデルが発表されることが予想されています。「情報を手に持つ」時代から「身にまとう」時代への移行は加速し続けています。そしてこの先には、 攻殻機動隊 が描いたように、人と機械が融合し、意識すらもネットワークと接続される未来が待ち構えているのかもしれません。攻殻機動隊は、人間の身体や記憶をデータとして扱える社会を描き、そのなかで「人間とは何か」という根源的な問いを突きつけてきました。その世界観は決して遠い空想ではなく、私たちがこれから実際に直面するテーマでもあるのです。
からだと一体化するテクノロジー
- 考えるだけで操作する:スマホやPCを開かなくても、意識で命令を送る。
- 網膜に映像を投影する:現実の風景に情報を重ね、視界そのものを拡張する。
- 体内センサーで自己治療:健康状態を常時監視し、異常があれば即対応。
これまでのテクノロジーは、眼鏡や自動車のように「身体を補助する道具」として発展してきました。けれども、これから登場するのは補助にとどまらず、身体そのものを拡張する技術です。考えるだけで機器を操作できる脳直結型のインターフェースが実現すれば、文字を打つ行為や画面をタップする習慣そのものが消えていくでしょう。
さらに、「網膜投影」については、J-STAGEの技術論文 網膜走査・投影方式ディスプレイ や、QDレーザの技術解説記事「網膜投影型ARディスプレイの仕組み」(XR-Hub) によって、その仕組みと現在の応用が詳しく理解できます。これにより、視覚補助や視覚拡張の最前線がどうなっているかが見えてきます。
もう一人の自分と生きる
- AIが代理で会議に参加:あなたの声と考え方で発言する。
- 同時に複数の場に存在:現実の自分と分身が並行して活動する。
- 人格のコピー:あなたの価値観や記憶を備えた“もう一人のあなた”。
AIはすでに私たちの代わりに文章を作成し、計算をし、情報を整理してくれています。しかし近い将来、それは単なる道具ではなく「もう一人の自分」として存在するようになるでしょう。AIが私の考え方や話し方を学び、まるで影武者のように社会に参加する時代です。
自分のAI分身(デジタルアバター)が同時に複数の会議に出席し、的確に意見を述べ、決定を下す。あるいは分身が海外の拠点で働いている間、現実の自分は別の場所で生活を続ける。家族や友人は「リアルのあなた」と「デジタルのあなた」のどちらと会話しているのか、境界を見失うかもしれません。こうしたテーマは、攻殻機動隊に象徴的に描かれてきた問題群とも響き合います。
現実と仮想が重なる社会
- 現実と仮想の二重生活:街の景色に仮想の建物が重なり、二つの世界を同時に生きる。
- 距離を超えた存在感:遠くの人と“並んで歩く”ように交流できる。
- 死者との対話:記録やデータを基に再生された人格と再び話す。
次の未来は、現実と仮想の境界が消えていく世界です。メタバース という仮想空間で、アバターを介して交流や経済活動を行う仕組みはすでに実用段階に入りつつあります。スマートグラス の進化はこの入口であり、音声アシスタントやライブ翻訳、視覚拡張によって、現実の体験に仮想のレイヤーが常時重なる生活が当たり前になっていくでしょう。
まとめ
AirPodsのライブ翻訳は、ドラえもん的な夢を一歩現実に近づけました。しかしその先には、人とテクノロジーが融合し、意識や存在そのものを問い直す社会が待っています。スマホの次に現れるデバイスやサービスは、単なる「便利な道具」ではなく、私たちの生き方、そして「人間であることの意味」を変えていくものです。
これからは、補助の域を超え、身体そのものを拡張する技術、さらに心や意識を補助・拡張する技術が私たちの生活に組み込まれていくでしょう。その変化は個人だけでなく、教育や労働、医療、そして国家という制度にまで波及し、社会の仕組みを根底から変えていく可能性があります。
未来を受け入れるとは、新しい機能を試すことだけではなく、自分自身や社会のあり方を見つめ直すことでもあります。身体を補助する道具から身体や心を拡張するツールへ──この流れの中で、テクノロジーは人類に新しい選択肢を与えると同時に、「どのような世界を築きたいのか」という問いを私たちに投げかけています。そして、その問いにどう応えるかは、未来のことではなく、まさに現在を生きている私たちの選択と望みにかかっています。
参考リンク・映像資料(日本語)
- AirPods Pro 3 公式発表(Apple Newsroom):Apple公式ページ
- 攻殻機動隊(攻殻機動隊 公式予告編):YouTube
- ブレイン・マシン・インターフェース(Brain Machine Interfaceの切り開く未来):YouTube
- メタバースとは(NRI 日本語用語解説):NRI
- Ray-Ban Meta スマートグラスとは(日本語解説):WebAR Lab
- MetaのAIグラス(製品ページ・日本語):Meta公式
- 網膜走査・投影方式ディスプレイ(J-STAGE論文):J-Stage
- 網膜投影型 AR ディスプレイの仕組み(XR-Hub):XR-Hub
- RETISSA アイウェア「網膜に直接光を投影する」概要(Ideas for Good):Ideas for Good


